第1弾「robocopyとZiDOMA dataのデータ移行時間を徹底比較」、第2弾「絶対知っておきたいデータ移行時の落とし穴!『Google ドライブ編』」と、これまで2回にわたってクラウドストレージに関する検証をお伝えしてきました「ガチ検証!」。おかげさまで、多くの読者の方からの好評をいただいている人気シリーズとなっています。第3弾となる今回は、クラウドストレージの一種であるオブジェクトストレージの「Amazon S3」と「Wasabi」について取り上げ、それぞれの特徴や料金などについて比較検証してみました。
まず、クラウドストレージの種類について、簡単に解説します。クラウドストレージには、大きく3つの種類があります。
1つ目は、データをフォルダとファイルの階層構造で管理するファイルストレージです。階層構造による管理は一般的なPCでも利用されているので、馴染み深く、扱いやすいのが特徴です。一方で、大量のデータを管理するのには不向きです。
2つ目は、データを固定サイズのブロックに分割して保存するブロックストレージです。ブロックストレージは仮想システムやクリティカルなアプリケーションなどの高速なアクセスが必要なシステムに適しています。一方で、コストが高額なため、通常の業務やデータのアーカイブには不向きです。
そして3つ目が、データをオブジェクト単位で管理するオブジェクトストレージです。非構造化データも含めた、大容量のデータを保持するのに適しており、バックアップなど大容量のデータを保持・蓄積する手段として利用されています。一方で、アクセス速度が比較的遅いため、頻繁にアクセスするデータの保管には不向きです。
なお、クラウドストレージの種類と特徴についての詳細は「クラウドストレージの種類と特徴を徹底比較」の記事で解説しているので参考にしてください。
オブジェクトストレージの代表例には、AWSが提供する「Amazon S3」があります。私たち、ARIがオブジェクトストレージへの移行についてご相談いただく際、特に多く名前が上がるサービスが「Amazon S3」です。一方で、近年になってよく名前が出るサービスに「Wasabi」があります。そこで今回は、クラウドストレージ界の重鎮的とも呼ばれる「Amazon S3」と、新進気鋭の「Wasabi」について、機能や特徴を比較してみます。
参考:
Amazon S3公式ページ https://aws.amazon.com/jp/s3/
Wasabi公式ページ https://wasabi.com/ja
まずは「Amazon S3」と「Wasabi」の特徴を簡単に比較してみます。「Amazon S3」は、クラウドサービス分野において世界最大級のシェアを誇るAWSが提供するオブジェクトストレージサービスです。AWS純正のみならずサードパーティが提供するアプリやツールが豊富に用意されています。さまざまなシステムとの連携が可能なため、柔軟かつ拡張性の高いクラウドストレージサービスであると同時に、データの耐久性やセキュリティ対策についても高い評価を得ています。また、世界トップシェアであることから、参考文献や資料が充実しておりコミュニティの活動も活発です、一方で、料金体系が複雑でわかりにくいという意見もあります。
「Wasabi」は2017年に登場した比較的新しいクラウドストレージサービスです。なお、オブジェクトストレージサービスとしては「ストレージプラン」を提供しています。名前の「Wasabi」は日本語の「わさび」が語源です。その最大の特徴は、シンプルかつ安価な料金体系です。「Amazon S3」とも互換性があり、「Amazon S3」用のツールやアプリもそのまま利用できます。安価ではありますが、機能面やセキュリティ面についても高いレベルのものが用意されています。一方で、比較的歴史が浅いサービスであるため、資料や参考文献は他の主要なクラウドストレージと比べて比較的少ないです。
参考:
「グローバルのクラウドインフラ市場シェア。AWSがやや減少の一方、マイクロソフトは順調にシェアを伸ばす。
2023年第4四半期、Synergy Researchの調査結果」
https://www.publickey1.jp/blog/24/aws20234synergy_research.html
「Amazon S3 におけるデータ保護」
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/AmazonS3/latest/userguide/DataDurability.html
続いて、「Amazon S3」と「Wasabi」について、料金の面から比較してみましょう。
「Amazon S3」の料金には、「ストレージ容量」「リクエスト(アクセス)回数」「データ転送量(データ取り出し)」の3種類があります(データ転送量は、AWSリージョン内およびAmazon S3から他のサービスへの転送は無料)。「ストレージ容量」は必ず発生する維持コストであり、「リクエスト回数」と「データ転送量」は利用ごとに発生する利用コスト(従量課金)です。つまり、利用頻度が上がればコストが上がり、利用頻度が少なければコストも下がります。
一方、「Wasabi」では維持コストである「ストレージ容量」のみの料金となっています。つまり、利用頻度やデータの転送量に関係なく料金は一定となります。
では具体的な例を挙げて、両者の料金を比較してみましょう。
※以下で紹介している料金や計算方法は、ARIが独自に調査したうえで計算したものであり、正確性を保証するものではありませんのであらかじめご了承ください。できる限り正確な内容を心がけておりますが、実際の利用料金等につきましては、各サービス提供事業者にお問い合わせください。
「Amazon S3標準」と「Wasabi」の料金比較(月額) | ||||||||
項目 | Amazon S3 標準 | Wasabi | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ストレージ容量の料金 |
0.025USD/GB (最初の50TB/月) |
6.99USD/TB | ||||||
リクエストの料金 |
0.00037USD /1,000回(※1) |
0 | ||||||
データ転送量の料金 |
0.09USD/GB (最初の10TB/月)(※2) |
0 |
※1:リクエストは「GET、SELECT、他のすべてのリクエスト (1,000 リクエストあたり)」の場合の料金です。
※2:データ転送量は、すべての AWS のサービスとリージョン (中国と GovCloud を除く)を集計して、1か月あたり100GB のインターネットへのデータ転送(アウト)は無料です。
参考:
Amazon S3料金(2024年7月25日現在) https://aws.amazon.com/jp/s3/pricing/
※東京リージョンの価格を参考価格として算出しています。
Wasabi料金(2024年7月25日現在) https://wasabi.com/ja/pricing/pricing
上記の表に基づいて、以下の条件における「Amazon S3 標準」と「Wasabi」の1か月間あたりの料金を算出してみます。
■比較条件(1か月間)
・契約プラン:Amazon S3標準、Wasabi
・ストレージ容量:500TB
・リクエスト回数:10万回
・データ転送量:50TB
■料金の計算式
◯Amazon S3標準の月額料金:
— 単位変換
S3標準ストレージ: 500 TB/月 x 1024 GB (TB 単位) = 512,000 GB/月
— 料金の計算
Tiered price for: 512,000 GB
51,200 GB x 0.025 USD = 1,280.00 USD
460,800 GB x 0.024 USD = 11,059.20 USD
合計階層コスト: 1,280.00 USD + 11,059.20 USD = 12,339.20 USD (S3標準ストレージのコスト)
100,000 GET リクエスト (1 か月間) x 0.00000037 USD /リクエスト = 0.037 USD (S3 標準 GET リクエストのコスト)
12,339.20 USD + 0.037 USD = 12,339.24 USD (S3 標準ストレージ、データリクエスト、S3選択の合計コスト)
S3標準の月額合計:12,339.24 USD
◯Wasabiの月額料金:
500(TB)×6.99=3,495USD
※Amazon S3の料金については、以下のページで概算を行いました。
https://calculator.aws/#/createCalculator/S3
※Wasabiの料金については、以下のページを参考にしています。
https://wasabi.com/ja/blog/general/rate-comparison
■2024年8月16日の為替レート1USD=148.50円で日本円に換算
・Amazon S3 標準の月額利用料金:約183万2,377円
・Wasabiの月額利用料金:約51万9,008円
以上のような結果となりました。ご覧のとおり、「Wasabi」の料金体系はシンプルですが、「Amazon S3」の料金体系は少々複雑で、条件によってかなりの違いが生じます。なお、「Amazon S3」や「Wasabi」に限らず、ストレージの利用料金は頻繁に改訂される傾向があります。さらに、海外のサービスは為替レートの影響を受けるので注意が必要です。
続いて、私たちARIが実際に検証した「Amazon S3標準」と「Wasabi」のデータ分析速度・転送速度を紹介します。なお、この検証はあくまでも私たちARIが実施した環境下での実測値です。データの種類や容量、ネットーワーク環境によっては異なる値が出る可能性は十分にあります。
■検証条件
・データ容量:103GB(105,472 MB)
・ファイル数:177,716
・使用ツール・システム:ZiDOMA data
「Amazon S3標準」と「Wasabi」のデータ分析速度・転送速度の比較 | ||||||||
名称 |
データ容量 (MB) |
移行 (秒) |
分析 (秒) |
移行実効速度 (MB/s) |
分析実効速度 (MB/s) |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Amazon S3標準 |
105,472 | 12,443 | 9,839 | 8.48 | 10.72 | |||
Wasabi | 105,472 | 11,002 | 3,619 | 9.59 | 29.14 |
データ分析速度は約3倍、転送速度は微量ですが共にWasabiの方が速い計測結果となりました。転送速度に関しては誤差の範囲かとも考えたため別の数十GBのデータでも行いましたが同様の結果となりました。今回扱ったオブジェクトストレージは大量のデータを効率よく保存するためのもので、それほど速度は重要ではありませんが、昨今のファイルサーバのデータ容量が膨大になっている傾向から参考になる数値で検証した経緯です。
とはいえ、速度は作業時間に影響するので速いに越したことはありません。参考までに、ARIが提供するZiDOMA ソリューションでは、データの転送速度を高める並列処理機能を搭載し、効率化を図っています。今回の速度計測結果は、検討項目の1つとして考えていただければと思います。
今回は、「Amazon S3」と「Wasabi」について、主に料金とデータ分析速度・転送速度について比較検証を行いました。繰り返しになりますが、検証値はあくまで私たちARIが設定した条件のもと、検証・算出したものであり、条件が変われば値も変わります。また、料金が改定される可能性もありますのでご留意ください。
一般的に、Amazon S3は、自動化データ管理機能が提供されておりデータ管理の負担が少ないため、大企業が扱うような大規模なデータストレージやバックアップに適していると言われています。一方、Wasabiは低コストで高速なデータ転送を提供するため、中小企業やコストを重視するユーザに魅力的なサービスとなっています。しかし、大企業であっても、何十年も前の設計データや動画など、「保存義務期間が決められているデータ」や「基本的に使わないが念のために残しておきたいデータ」などは、コストを重視してWasabiを選択するケースもあるでしょう。逆に、中小企業であっても、個人情報や重要な機密データなどは、管理面やセキュリティレベルを考慮してAmazon S3を選択する場合もあるでしょう。
ファイルストレージの容量が不足したため緊急にデータのアーカイブが必要であれば、予算が立てやすいWasabiを選択するケースが多いかもしれません。一方で、他システムとの連携や将来の拡張性を重視するのであればAmazon S3を選択するのもありです。注意していただきたいのが、料金も速度もオブジェクトストレージを選定する検討項目の1つにすぎないという点です。どの検討項目を重視するかは、用途や目的によって大きく変わります。もし、「どのような場合に、どのような検討項目を重視すべきか」にご興味があれば、お気軽にお問い合わせください。ARIが過去に扱った事例を基に、用途や目的などに応じた選定のご相談にのります。
なお、オブジェクトストレージは低速度なので、大容量データの移行や分析にはかなりの時間を要します。テラバイトを超えるデータの移行には数日を要するケースもあり、手動での対応は難しいため、ツールを用いた自動化をお勧めします。ARIが提供する「ZiDOMAソリューション」は「Amazon S3」と「Wasabi」の双方に対応しています。もし、これらオブジェクトストレージへの移行をお考えの際には、ぜひご検討ください。
このブログでは、今後もデータの移行や分析に関する、さまざまな検証を実施していく予定です。「こんな事について検証してほしい」などのご要望もお待ちしております。
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